◆ ITの活用で企業経営の改革を
発刊日2005年10月31日 季刊 沖縄 第29号 沖縄IT経営応援隊 隊長 名護宏雄 1、 行政での取り組み状況 (1) 国の取り組み 2000 年に国を挙げてIT革命に取り組み、世界最先端のIT国家の実現をめざすと首相自ら先頭を切って動き出した「IT基本法」の制定は大いに期待した。世界規 模で生じているIT革命に的確に対応し、インターネット等を通じて自由かつ安全に多様な情報や知識を受発信する。創造的かつ活力ある発展が可能となる社会 の形成で「いよいよ日本も世界規模で生じている情報通信技術による産業・社会構造の変革、即ちIT革命の恩恵が享受出来る」と思うと胸が高鳴った思いがあ る。業界でも各方面で議論が沸騰したが、概ね好意的な意見や歓迎のメッセージが多かった。ITバブル崩壊の後遺症や長期不況からの脱却を期待したい気持ち が巷に溢れていた。 (2) 沖縄の取り組み 県でも「マルチメデイアアイランド構想」が策定され世論も盛り上がり、職場や業界団体も巻き込んだ熱い議論が交わされ た。高速・大容量通信で、低コスト を実現し情報通信網の基盤整備を行い積極的に関連産業の集積、振興の図る。インフラ整備を中心とした構想であったが夢を抱かせ、肯定的な雰囲気だった。 私が参加した01年の県産業教育審議会の専門委員会でも、国や県の出来たてのIT関連資料が提供され、時間を掛けて勉強し、全生徒に「情報」を履 修させ る多様なテーマで議論は盛り上がった。IT人材を早期育成する先進地域となる事を目指し、県民1人1人の情報リテラシーの向上や学校教育の充実。情報化・ 国際化に対応した人材を早期に育成し、人材層を形成していく夢のある課題が議論された。 「沖縄e-Island宣言」も県民生活の向上、自立に向けた持続的発展を目指した趣旨で宣言されたが、構想の実施結果や効果の評価が十分為されない状況もあって、判断の術もなく議論も盛り上がりにかけ新鮮さは感じられなかった。 (3) その後の状況 2001年から総力を挙げて取り組まれてきた「e-japan戦略」がスタートして丸5年が経過しようとしている。国も 年度ごとにフィードバックと新たな取 り組みの「e‐japan重点計画」の策定を継続してきている。「IT基本法」の制定、国を挙げた支援も最終年度を迎えたがまだ十分な成果は実感できな い。特に中小企業の経営への活用の遅れは深刻でこのままでは国際競争に勝ち残れそうにない。中国、韓国やインドの変化への対応は早く、世界の人材供給基地 としての存在感が高まっている。「IT経営応援隊」はこれまでの施策よりも一層積極的に、中小企業と地域ぐるみでの協同関係を構築し05年からの3年間に 新たな施策や事業展開を目指している。 2、 沖縄でのIT活用 (1) IT化の流れは止められない 楽天とソフトバンクのプロ野球の球団経営、ライブドアの株買収劇などの話題がマスコミ報道され、インターネット発信が大 きな役割を果たした。台頭するネッ ト企業の社会的経済的な影響が大きかったことで、国民全体が、ネット関連市場の爆発的な成長の可能性に期待し、メデイアや流通、金融などを融合するビジネ スモデルがより一層注目される様になった。世界経済の底流で加速している「IT革命」の進展を見据えた企業戦略構築の必要性が高まってきた。 (2) 沖縄の設計事務所業界でも 沖縄の建築設計事務所業界へのパソコン導入や普及も、構造計算やCADを中心に早い時期から始まった。20年前、パソコ ンがまだ普及し始めの業界は手書き の図面と青焼きコピー機が中心の手作業であったが、現在では図面の作成から現場の管理までデジタル化され、申請もメールになり様変わりした。またCADソ フトも一時は多数のメーカー製が混在していたがフリーウェアのJWCADが主流になり、関連業界の建設業者や電気・水道の業者も互換性維持のため、徐々に JWCADがデイファクトスタンダード的位置を占めるようになった。営業でのホームページ活用や現場管理に携帯電話の機能を生かした、より高度な活用を追 及する方々も出てきている。初期のころは芸術的傾向の強い人や経験の長いベテランの方々には理由をつけて導入に抵抗や反対した設計士の皆さんもいたが、周 りからの影響や時代の流れの中で、自ら挑戦して克服した方や若い人材を採用して切り抜けた方々がいた。業界で活躍をした実績のある先輩と学校出たての技術 者との上下関係にも影響し、待遇面でのトラブルも散見された。 (3) 導入のタイミングは オフコンが市場のメインの時代は5000万円前後の価格で導入した機械が6年の耐用年数が来て、買い変えの頃には価格は 1千万円程度で、機能は100倍に なる事が多く買うタイミングが難しかった。思い切って投資をした経営者からはよく苦情が来たが、担当者任せの経営者の中には金額を誇り自社システムを自慢 する方もいた。パソコンの業務用のセット価格は150万円前後になったので、購入後の苦情は減ってきた。 ITはいろいろな業種、業態で、多様な活用をされる様に成ってきたが、企業経営の分野で十分な効果や成果を永続させるのは容易ではない。経営に生 かす先 進的で有効なシステムを構築しても技術の進化や変化が早過ぎて、メンテナンスと更新の継続は疎かに出来ない。ITを有効活用しているつもりが、いつのまに か取り残されて時代遅れのシステム活用の危険性もあり経営上の活用は一筋縄には行かない。最近では成功事例も身近にも増えてきたが、ハードやインフラの効 果は目視での確認や数値での説明も難しく、質的効果や長期での実践成果が明確になるのはかなり遅れる。同業者でも経営戦略や社員の構成でもやり方に違いが あり、波及効果の広がりの速度も遅い。 3、 我が社のIT経営 (1) 沖縄の業界の取り組みは早かった パソコンやプリンターが導入されネットワークで繋がれたLANで仕事をこなす企業も増えて来た。「沖縄は市場が狭いだけ に、口コミで広がるのも早いし飽和 に達するのも早い」。どんな業種であれ、2,3年すればブームになり競合が起こる。たとえ技術中心の業種でも資金を必要とする業種でも同様で、なかなか新 規の企業が育ちにくい環境にある。 沖縄のIT化への取り組みや、業務への活用は全国的にも早 かった。パソコンがブームのとき他県では8ビットのゲーム用の機種が売れて品不足のとき沖縄は16ビットの機種が良く売れて、メーカーの担当者も不思議 がっていた。沖縄は中小・零細の企業が多く、歴史も浅いので資本の蓄積も余力も無く、高価なオフコン購入は無理があり、安い手頃なパソコンの普及が早かっ たと思われる。 (2) わが社のネット活用 わが社は、事業スタート当初から沖縄の企業はパソコンで充分との認識で「沖縄ならではのソフト開発を心がけ」、業務活用 専門の営業に特化したショップを目 指した。ハードとソフトパッケージの販売のほかネットーク構築やソフト開発、IT教育事業も手がけ、総合的なIT関連事業を展開してきた。創業は1982 年で23年を超えた。ノベル社のNetware全盛の95年頃からネットワークでの業務処理を導入。翌年からマイクロソフトのWindows NTに変 更、45名で1人1台の体制を開始し、Lotus Notesをカスタマイズして、日報や連絡帳、勤怠管理や経費生産、給与計算や販売管理などで活用し た。投資効果を挙げるために、Notesのライセンスはフルの45セットにして、他の業務用のライセンスは最低限必要な本数5,6本で契約、全員の共通プ ラットホームとしてNotesデータへ変換して活用し経済的な負担の軽減を図った。 顧客提案の前に実用面でのノウハウの蓄積、運用体験をアドイスする、「自分たちで検証し、良いものだけを提案する」行き届いた営業展開をするのに役立った。 さらにFAXサーバーの導入、メールデータの携帯への自動転送、給与明細のメール配信化等社内でのペーパーレスの徹底を目標に取り組んでいるが、見積書、納品書に課題が残っている。携帯電話の活用と客先との連携で可能性を見出し前進したい。 沖縄は良いもの新しいものは一気に普及するが市場の飽和も早い。97年の社員数は53名で売上がおよそ15億であったが、8年経った去年が37人 で14 億の売上である。7名居た事務職が育児休業から復帰したベテラン3名でこなせるようになったり、技術の進歩や業務の形態も大分変わってきた。インフラの整 備、特にブロードバンドや携帯電話の普及と機能の強化によりネットの活用が活発になった影響と、担当者の努力や協力による効果も大きい。 4、 戦後60年を迎えて (1) グローバル化の進展 戦後60年を迎えた今年は各マスコミでの特集や関連報道が多かった。ネットが普及して世界の情報が短時間に多くの国の人 々に広がる情報技術革命の時代が到 来。インターネットの普及でグローバル化の進行を促し、国境を変え隣国との関係は従来のように、国の内と外で情報の使い分けが出来なくなって来た。アジア の近隣諸国と平和な未来を展望し、過去の歴史を冷静に振り返り関係修復を図る時期だと思った。戦時中の焦土化した沖縄で生まれ育った方々が、平和をテーマ の同期生会を企画中との話をモアイの場で聞いて感動した。 (2) 沖縄にもチャンス到来 弱小で僻地と言われた沖縄やその離島が、地域特性や特産物、文化や産業を生かせば癒しの場、少子高齢化社会のモデルと言われるようになった。ITコストが劇的に下がりネットが普及し、ITを駆使した経営や電子商取引で販売規模を広げた成功事例も増えている。 入域観光客数が500万人を突破するようになって4,5年になった。豊かな自然や独特の文化や沖縄の特徴や歴史さえ大事に残せば、これからも継続して多く の来客が期待できる。今の入域客数が保証されるならそれ以上の数を追求するよりも、長期滞在等の質的に内容豊かな方策が大事に思う。ゆったりと気長に、沖 縄文化への理解や県民との交流を深める。自然体験ツアー等多くの可能性の中から県民や観光関連業の皆さんが模索研究することで、経済効果を維持拡大させる 方策が見つかるように思う。 (3) IT経営で経営革新を 高度経済成長の時代は先進地域や先進企業を視察すれば、技術の先進性や斬新さが一目瞭然で理解可能であった。ハードの数 や活用ソフトの内容さえ把握できれ ば企業経営上の優劣の判断ができ、手遅れになる前に対策が打てた。昨今はIT化の波に乗り遅れがちといわれる中小・零細企業でも1人1台の時代を迎え、画 面を前にした職場風景が定着した。ハード・ソフトのモデルチェンジの短期化、コンテンツ技術の進化と短寿命化、消耗や劣化への対応で経済的負担も大きい が、IT経営を避けては生き残れない。 また管理者の世代によっては社員の動きを見ても業務の内 容が掴めない、メールのネット上での動きもなかなか把握しにくい、個人情報保護の動きもあってIT導入を避けたがる傾向もあるが、ITはもともと道具であ り、時間をかけて教育と訓練をすればむしろ知識と経験豊富な世代が有利になる可能性もある。 昨年12月、沖縄総合事務局の通商産業部の支援で「沖縄IT経営応援隊」が立ち上がった。業界のIT導入の流れに乗り遅れないで、自分の会社が5年後、10年後も元気でいる為にも多くの企業の活用を期待したい。 |